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2005年11月刊行『アフリカNOW』71号寄稿論考
『アフリカNOW』は、アフリカ日本協議会(Africa Japan Forum)機関誌です。同会については、こちら。
産科フィスチュラとは何か What Is Obstetric Fistula?
フィスチュラジャパン代表中山道子
略歴:
東京大学法学部卒業。ハーバード大学公衆衛生学大学院卒業(MPH)。有限会社マリポーサ取締役。2005年春、非営利任意団体フィスチュラジャパン設立 |
フィスチュラ(ろうこう。ろうともいう。漢字では、瘻孔)とは、医学用語で、体の器官に空いてしまった、本来あるべきでない孔のことを言う。例えば、痔ろうは、肛門深部に孔が開いてしまうこと。産科フィスチュラとは、出産時に、難産が長時間にわたる状況が生じたことにより、産道と膀胱や直腸との壁に、孔が開いてしまう状態を指す。
通常、栄養失調や若年出産といった理由により、骨盤が胎児の頭に対して狭窄である場合に生じやすい。FGMの影響も指摘される。初産婦に多いが、経産婦であっても、経験することがある。先進国であれば、鉗子分娩や、最終的には帝王切開により回避できるトラブルだ。数日間にわたる長時間陣痛の結果、胎児は、産道にて通常死亡し、その結果、縮小・排出となるのだが、その段階までに、母体組織にダメージを与えてしまうのだ。傷が癒えにくいから、途上国共通の課題である出産後の感染症のリスクも高まる他、場合により、下肢に神経障害が生じて歩行困難になることもある。
産婦は、産後、尿や糞の垂れ流し状態での生活を強いられることになり、子を出産できなかったというスティグマの他、社会的な孤立にも悩むことになる。離婚のみならず、実家の家族との同居なども、身体的汚臭から困難になるからだ。識字率も低く、農耕中心の家族単位の経済生活からはじき出されることが多いので、生活は苦しく、精神的なショックからうつになるものも多いという。自殺例も報告されている。村はずれでひっそり生活をする他、生活費を得るための売春を行うもの、都市部に出てきてホームレス生活に入るものもいる。
治療は可能で、通常の手術代は、約2週間の入院を含め、300ドル(UNFPA)。技術によるが、手術の成功率は、9割ほどにまで高められる。バングラデッシュなど、南アジア諸国や、エチオピア、ニジェールなどのサハラ以南を中心としたアフリカ諸国に多い他、スーダンなどの一部のアラブ国でも観察される。
現地では、多くの場合、治療は事実上不可能。例えばニジェールの首都ニアメにある国立病院では、先進国のボランティア医師団の時折の来訪を待って患者が何十人もたむろしたまま、何年もの年月が過ぎる、といった状況が恒常化している。
昔は、日本やアメリカでも、存在したというが、社会が豊かになり、医学が進歩し、普及したことで、ほぼ撲滅した。現在、その数は、世界中で、200万人。毎年、5万人から10万人の新規患者が生まれていると推定される(WHO)。
アフリカ支援関係者も「聞いたことがなかった」と首をかしげることがあるほどこれまで取り上げてこられなかった疾病だったが、UNFPAが2003年にEnd
Fistula Campaign(http://www.endfistula.org)を開始し、関係者の長年の努力に日が当たり始めた。日本政府も、2004年、人間の安全保障基金から、ナイジェリア、パキスタン、マリの3カ国におけるUNFPAフィスチュラ問題対策費用として、総額364万6,500ドルの支援を行うことを決定。被害者の存在が認識されてこなかった理由として、社会的最弱者であるこうした少女たちが、スピークアウトする場がなかなかなかったのではと指摘される。「現代のライ病患者」とも評されるゆえんだ。
私が設立したフィスチュラジャパンは、日本でおそらく初めてのフィスチュラ問題専従の支援団体。40年以上もの間、無料でフィスチュラ罹患者の手術を行ってきたキャサリン・ハムリン医師が率いるアジス・アベバ・フィスチュラ・ホスピタル支援を通し、世界中のフィスチュラ患者をサポートすることを目的としている。詳細は、http://www.fistula-japan.org、電話03-4500-8546
同病院の調査では、エチオピアにおける総出産数に対するフィスチュラ罹患患者比率は、約0.3%。一番効率的かつ効果的な予防策は、若年婚阻止だ。手術費300ドルだけの問題なら、悩みは小さいとも言える。実際には、風習に干渉する若年婚阻止啓蒙や、離村で孤立した患者を救済するという事業にかかるあらゆる社会的コストは、こうした国にとっては、まさに、prohibitive。UNFPAや支援団体などと協力するなど、自国の状況なりに少しでも問題に取り組もうとするケニヤやエチオピア政府の姿勢に対し、調査にすら手が付いていない国が多く存在することが、今後の一番の課題だ。
フィスチュラジャパン・リエゾン國枝美佳撮影・アジス・アベバ・フィスチュラ・ホスピタル風景―術後、下肢の動きを取り戻すために物理療法に励む患者たち
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